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1973年、台湾東部の吉祥鎮に日本から映画のロケ隊がやってきた。撮影のために吉祥戯院の付近がまるで日本統治時代のように姿をかえると、時空のねじれと記憶の逆流が住民の生活リズムに変化をもたらす。映画館の看板書きの息子・小羅が生徒役に抜擢されたことで、フィルムの運搬屋・阿昌とアイス屋の養女・蘭子、幼なじみ3人の関係もゆらいでいく。
中国東北地方出身の父と原住民の母をもつ小羅、日系二世の研究者・健二、湾生(台湾生まれの日本人)の映画監督・松尾、そして霊魂となってさまよう台湾人日本兵・敏郎。
未完の日台合作映画『多情多恨』に導かれ、70年の時空を往来して少年たちのもつれた記憶が解き明かされる。故郷喪失者たちの流転を描く長篇小説。